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2006年3月23日 (木)

感情を表に出す、ということ

 最近のレイカーズ戦取材での密かな楽しみはベンチにいるロニー・トゥリアフの観察。とにかくハイパーな男で、下手すると試合に出ているときよりベンチにいるときのほうが運動量が多いんじゃないかと思うほど。ワンプレーごとに立ち上がり、跳び上がり、腕を振り、タイムアウトになるとコートに走り出てチームメイトたちを迎える。試合前もクワミ・ブラウンやアンドリュー・バイナムという、ふだんあまり感情を表に出さない選手たちを相手に引きずり込んで、シャッフルしてみたり、チェストバンプ(跳び上がって胸をぶつけるヤツね)をしてみたり。試合に出るとその元気のよさで頑張りすぎてミスすることもあるのだけれど、彼のよさをわかっているチームメイトたちは苦笑いしながらも許している雰囲気。ま、まだルーキーだしね。チームの全員がトゥリアフのように感情を出していたら大変だけど、彼のような選手がチームに一人いると刺激になって、活性剤になる。

 そんな彼を見ていて、先日のWorld Baseball Classicsでのイチローを思い出した。テレビで見ていて、今のイチローを取材してみたいなぁと心から思った。ふだん野球の取材はしない私なのでイチローの取材をしたのは彼がかつてマイケル・ジョーダンに会いにきたときだけ。その後、大リーグにやってきてからの活躍には感嘆していたけれど、特に取材したいと思ったことはなかった。でも今回はスポーツの壁を越えて、取材してみたいと思った。それは、やはりこの大会中の彼がそれまでのイメージを覆すような言動を見せ、これまでは平常心という殻の陰に隠れていた感情を表に出していたからだ。その変化に、ライター心が刺激された。

 アメリカは、日本に比べると感情をストレートに表に出す世界だ。そういえば、アメリカに来た日本人バスケットボール選手にアメリカ人選手といっしょにプレーしての感想を聞くと、必ずといっていいほど返ってきたのが、「練習でも、負けたときには無茶苦茶悔しがる」「感情をすごく表にだす」ということだった。これはきっとほかのスポーツでも同じではないかと思う。苦笑いしながらまわりのアメリカ人をそう形容しながらも、「それだからアメリカでプレーするのは楽しい」と言う。まわりの人のことをおもんばかることが美とされている日本人はなかなかここまで素直に感情を出すことができないだけに、そういう激しさ、情熱をストレートに出せることがうらやましくもあり、そうやって感情を表に出す彼らに引きずられるようにいつも以上に力を出すことができたることが嬉しくもあり…。
 そんなアメリカ人の中でやっている間に、日本人選手たちも少しずつ感情を素直に表に出すようになってくる。派手に感情を出すアメリカ人の中にいると気づかないかもしれないけれど、日本に戻って、渡米前にいっしょにプレーしていた仲間と久しぶりにプレーしたりしたときに初めて、自分のその変化に気づいたりするのだ。
 今回のイチローはある程度意図して感情を出していたところもあるだろう。でも、きっとああいう鼓舞のしかた、感情を表に出すことでチームメイトを引っ張るやり方はアメリカで身につけたものなのだろうなぁと思う。

 そういえば、中国からNBAにきているヤオ・ミンも、最近は前より喜怒哀楽を出すようになってきた。それはアメリカではおおむね、「いい変化」だと受け止められている。でも、中国ではそんなヤオの変化に戸惑う人もいるようだ。アテネ五輪のときにはヤオが意見をあまりにストレートに口にしたこともあって、「すっかりアメリカナイズされてしまった」と嘆く人もいたらしい。日本もそうだが中国も、単に感情を表に出して意見をはっきり言えばいいという世界ではないだけに難しい。
 それでも、ヤオもイチローも、プレーで結果を出しているからこそ、そういった異文化の風をチームに持ち込んでも受け入れられ、最終的にチームをプラスの方向に導くことができるのだ。日本バスケットボール界にもいつの日かそういう存在となりえる選手が出てきてほしい。そしてそのときこそは、ぜひその選手を取材してみたい。

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2月分のブログ記事を、当時の日付にさかのぼってアップしてます。

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コメント

中継でもよく映りますね。ベンチでタオルを振り回しているのを見ます。
疲れないのかな...と、思うくらいです。
ベンチが沈みがちなときでも、1人で頑張っている感じです。
もっと、プレイタイムが伸びて、ベンチではなくコートで、はしゃぐ彼が見られるといいなと。思いました。

投稿: クニー | 2006年3月28日 (火) 22時12分

トゥリアフは、もしかしたら世界選手権でコートの上での元気な姿が見られるかもしれません。彼、フランス国籍で、フランス代表候補にも入っているんです(月刊バスケットボールのフランスからの記事には、「競争が激しいから選出されるかどうかわからない」という感じで書かれていましたが…)。

ちなみに、本人に世界選手権に出るかどうか聞いたら、「そうなったらいいなぁ。ぜひ、日本に行ってキモノ着たいんだ!」と、元気よく陽気に語ってくれました(笑)。愛想いいし、日本に行ったら人気者になりそうですよね。

投稿: 陽子 | 2006年3月30日 (木) 10時26分

イチローのインタビューが載っているNumber最新号が手元に届きました。思っていた以上の理由を語っていて、ますます彼に対する興味が沸いてきました。と同時に、こういった選手の声を引き出すことができるスポーツライターという仕事の幸福もあらためて感じました。さ、仕事をしよっ。

投稿: 陽子 | 2006年4月 1日 (土) 16時40分

WBCでのイチロー選手の発言がいろいろ話題になりました。
でも、COOLなイメージがあった、彼に対しての見方がずいぶん変わりました。
とても熱く、そして野球と言うスポーツに対して、並外れた思いがあることを。
流した汗はうそをつかないこと、一生懸命にやることの素晴らしさを教えてもらった気がします。

投稿: クニー | 2006年4月 2日 (日) 05時38分

日本バスケットボール界の「そういう存在となりえる選手」

ご存知かと思いますが、波多野@大阪エヴェッサはどうでしょう!
http://www5.nikkansports.com/osaka/sports/bj/evessa/player/20060408-11744.html


ルールを知らない新しいバスケファンへの配慮は、バスケに浸かってる人には見えない部分だと思います。が、バスケ普及には必然ですね!bjに提案してみます。

投稿: kawashiman | 2006年5月27日 (土) 12時57分

波多野選手、私の印象では感情を出すよりはクールにプレーするタイプという印象なのですが、紹介していただいた記事を読むと、実はもっと熱いタイプなのかな(なにしろ、私も実際に見たのは2回だけなので…)。次の機会には、その熱さにも注目してみますね。

投稿: 陽子 | 2006年5月28日 (日) 01時15分

ありがとうございます。

プロとしての「自我のめざめ」として、
外人の中で吠えられる日本人は、
彼の風貌くらい迫力ないと。 (^^)

投稿: kawashiman | 2006年5月29日 (月) 02時44分

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