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2010年5月の記事

2010年5月31日 (月)

シューズ

 カンファレンス・ファイナルになると、全米各地の記者が増えてくる。先日のサンズ@レイカーズ第5戦でも、懐かしい顔がチラホラ。
 一人はかつてNYタイムス、現在ワシントン・ポストのマイク・ワイズ。メディアルームの外でばったり顔をあわせて、お互い挨拶した後に「時々、君のbyline(記名記事に書かれた筆者名)を見るよ」と言われた。何かと思ったら、どうやら私の名前で検索したらしい。
 ちなみに、マイクは、少しだけ日本語を話すことができて、ひらがなだったら読めるらしい。でも漢字は読めない。…ということは当然、私の記事は読めず(笑)、記事にあるアルファベットの名前部分だけ見るに終わったようだ。「日本語が読めたら、ブログもツイッターもやっているのに」と言っておいたけれど、たぶん無理だろうな。

 もう一人見かけた懐かしい顔は、元スラム誌で今はESPNのスクープ・ジャクソン。シカゴに住んでいた頃はよく試合で顔をあわせていたけれど、私がLAに引っ越してからはオールスターやファイナルなど大きな試合でしか会わなくなった。
 翌日のLAのラジオにも電話出演していたのだけど、何でも試合は最後まで見ることができず、空港に向かう車の中で最後の劇的な場面の実況を聞いていたらしい。
 その直後、彼が司会を務める The Next Roundという番組がESPNで流れていたのだが、LAを拠点とするESPNのライター、JA・アダンデ(元シカゴ・サンタムス→ワシントン・ポスト→LAタイムス→ESPN)がゲストとして出ていたから、もしかしたらこの番組の収録でLAに来ていて、ついでに試合に来たのだろうか。

 それはともかく、このThe Next Roundが、1回2分間というごく短い番組なのだけれど(CMのような扱いなのかも)、なかなか雰囲気がよく、さらに内容も面白いのだ。Jin Beam というウィスキーの会社がスポンサーということもあって、ジャズバーのようなセットでスクープ+2人のゲストがNBAを語る(放映は2分だけど、30分番組が作れるほど話していると思うので、ぜひカットした部分も見てみたい)。
 
そういえば、昔、シカゴでは個性豊かなベテラン・スポーツライターが媒体を越えて出演、葉巻やタバコを吸いながら喧々諤々とスポーツを語るという番組(The Sports Writers on TV)があったのだけど、それを現代版&お洒落にした感じ。スクープはシカゴで育った人なので(今もシカゴ在住)、あの番組が元のイメージとしてあるのかもしれない。

 The Next RoundでJAが出ていた回のもう一人のゲストは、インディアナ・ペイサーズのダニー・グレンジャーで、トピックは敵選手を称賛すること、敬意を払うこと。その流れで対戦相手の選手、敵チームの選手のシグニチャー・シューズを履く話になった。すると、JAがこう言った。
「ジョーダンがまだ現役だった頃、彼をマークしなくてはいけないのにエアジョーダンを履く選手がいるっていうのが信じられなかった。僕はインタビューするのにもエアジョーダンを履いていきたくなかった。そこまで彼にアドバンテージを与えたくなかった」
 この気持ち、わかるな~。このあたりは、記者によっていろんな考え方があると思うけれど、私も取材するとき、できれば選手とは対等な気持ちでしたい思っている。上でも下でもなく同じ立場。もちろん、選手たちはすばらしい才能の持ち主で、そのことに敬意は払うけれど、記者が取材する前から選手に媚びていたら、いい話は聞きだせない。ジョーダンのことも、長年近くで取材していたけれど、エアジョーダンを履いて取材したことはない。エアジョーダン自体、持っていなかったのだけれど、買うのに躊躇したのにはそういった気持ちもあったのだと思う。エアジョーダンを履いたからといって媚びているわけでもないけれど、こっちの気持ちの問題として、ね。
 この番組を実際に見たい方はここでどうぞ。あとiTuneのPodcastでも番組をダウンロードできます。お勧め。

 さて、ここまでは実は長い前振りで、ここからがきょうの本題。JAの話で思い出したのが、この写真。

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 少し前に探し物をするのに資料が入ったダンボール箱を探っていたら出てきた写真だ。いや~懐かしい。ロッカールーム内はオフィシャル・カメラマン以外はカメラでの写真撮影は厳禁なので、長年取材していても、この手の写真はほとんど持っていない。この写真はブルズのオフィシャル・カメラマンのビルがいつの間にか撮影していてくれたようで、後に大きく引き伸ばしてプレゼントしてくれたのだ。
 注目はこのときに私が履いていたシューズ。スニーカーっぽくない色で気に入っていたのだけど、実はFILAのシューズだった。気に入っていたので、試合にも時々履いていったのだけれど、あるとき(この写真とは別のとき)、試合前のロッカールームでいつものように選手が出てくるのを待っていたら、トレイナールームからロッカールームを通って出て行ったジョーダンが、本当に一瞬チラっとこのシューズを見ただけでナイキでないことをわかったようで(シューズ好きの人からしたら当然かもしれないけれど、シューズの見分けが苦手な私にとってはそれ自体がすごいことだ)、通りがかりに「なんでナイキを履いていないんだ」と言い、その返事を待つことなく通り過ぎていった。
 これにはさすがに、私も、一瞬、「え?」状態だった。ジョーダンが通り過ぎてから、FILAのシューズについて言われたのだとわかり、いやはや目ざといと驚くやら、一人のメディアのシューズにもそこまでこだわるかと可笑しくなるやら。

 ジョーダンのナイキに対する忠誠心にまつわるエピソードは他にもたくさんある。たとえば、以前、シカゴで行われていたジョーダン・キャンプに日本から来た子供たちの通訳という仕事をしたことがあった。そのとき、キャンプ参加者には、キャンプの最後に一つだけ、自分が持ってきた好きなものにジョーダンのサインをもらえるという特典があった。参加していた日本人の子の一人が、いつも自分が履いているアシックスのシューズにサインをもらいたいと差し出したそのとき、ジョーダンは「これはだめだ。シューズはナイキじゃないとサインはしない」と言うのだ。英語が喋れないその子に代わって「でも、ナイキは元々、アシックスの販売会社として始まったのだから、言ってみれば兄弟会社のようなもの」と主張したものの、「それは知っているけれど、だめだ」と、最後までアシックスのシューズへのサインを拒んだ。たぶん、他メーカーのシューズにサインをすることで、そのシューズを認めているように受け止められる可能性があるのが嫌なのだろう。結局、その時はシューズではなく、シャツか何か別のものにサインしてもらって一件落着だった。

 色々な選手を見てきたけれど、ジョーダンほどこういった細かいところで揺るぐことなく、頑固なほど一貫した言動を取り続ける選手は他にあまりいない。他の選手だったら、自分が契約しているメーカー以外のシューズでも、子供からサインを求められたらサインするんじゃないだろうか。ジョーダンのように、いつでも、どんなときでも拒み続けるのもエネルギーがいるはず。でも、そんなことにまでこだわり続けるメンタリティは、ジョーダンの偉大さを支えている重要な要素の一つだと思うのだ。

 通りすがりにシューズを見分ける視野と動体視力(?)もね。

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2010年5月29日 (土)

言葉

 Cager Japanに掲載になっている漫画家・井上雄彦氏のインタビュー(前編)で、井上さんは「スラムダンク」中の名言と言われる言葉について、「言葉だけを抜き出すとそんなに特別なことは言っていない。漫画のセリフなので、そこまでの流れとかキャラクター性があり、その言葉がポンと出ると読者の心に深く残るのだと思う」と言っていた。

 よく考えたら、これは漫画の世界だけでなく、スポーツ選手が発する言葉に感動したり、刺激を受けるときでも同じだ。

 こういう仕事をしていると、日ごろから多くの選手やコーチの言葉を耳にする。その中で、この言葉を伝えたいと思って記事にすることも多い。それは、必ずしも目新しい言葉とは限らず、よく聞く決まり文句であることも多い。別の場面、別の状況で、別の人から聞いて、その時は流していた言葉であることもある。

 でもその言葉を発するまでにその人が経験してきたことや、その言葉を口にしたときの気持ち、その言葉にこめられている思いを理解できたとき、それは胸に響いてくる。

 選手たち自身も、自分の気持ちを確認するとき、気持ちを盛り上げたいとき、人の言葉を求めることが多い。アメリカで出会ったコーチの多くは、モチベーションをあげるような言葉をたくさん知っていて、その中からその時々の状況にあった言葉を選手に伝えてやる気を起こさせようとしていた。
 以前、モントロス高校のストゥ・ベター・コーチを取材したときに、彼のファイルにはそういった言葉がたくさん集められていた。コーチ仲間の間でまわして共有することも多いという。ポートランド大のエリック・レベノ・コーチのツイッターでも、あちこちから引っ張ってきたモチベーションの言葉が引用されている。

 そういった言葉にしても、言葉だけ聞いて必ずしもやる気が起きてくるわけではない。苦しんだり悩んだりする経験をしたからこそ、その言葉に共感することがあるから響いてくるのだ。ロッカールームでの試合前のコーチの言葉が、選手全員のやる気を起こさせるのは、彼らがみんな同じ苦しい練習をし、シーズンを戦ってきたという、共有するものがあるからだ。

 話は少しそれるが、先日ツイッターで紹介したマリオン・ジョーンズのインタビュー・ビデオ。ジョーンズは言わずとしれた元陸上選手。オリンピックなど多くの大会でメダルを取ったが、後にドーピング使用を認めてメダルは剥奪された。
 そのジョーンズ、大学時代は名門ノースカロライナ大のバスケチームの一員として全米優勝も果たしており、今シーズン、WNBAに挑戦、タルサ・ショックのロスター入りを果たした。ビデオの一番最後で、インタビュアーのシェリル・ミラーから、自分について学んだことは何かと聞かれたときのジョーンズの答えは印象的だった。
「マリオン・ジョーンズではなく、マリオン・ジョーンズでもいいのだということがわかった」

 これ、文字に起こすと何が何だかわからないけれど、最初のマリオン・ジョーンズは強い語調で、2度目のマリオン・ジョーンズは普通の抑揚で言っていた。まわりから期待されているような、すべてを成し遂げることができるマリオン・ジョーンズではなく、欠点もあるし、失敗することもある普通の人間のマリオン・ジョーンズでもいいのだと。

 これを、説明せずに伝えられるのが、映像(音声)の強さ。文字はそれは伝えられないけれど、かわりに映像では捕らえきれないものもたくさん伝えることができる。

 ライターとしての話に戻ると、取材している中で、聞きながら「この言葉は使える」と思うことがある。やや不純な思いだとは思うけれど、おそらく同業者ならみんな経験があるのではないだろうか。
 でも、実際には、単に「使える」言葉だけで記事を書いても、それは上っ面のするっとした記事になるだけ。その言葉を発した裏にある苦しみや悩み、努力。それをすべて文章で表すことは無理だけど、それを理解したうえで、少しでも伝えながら記事としてまとめる。それがライターとしての醍醐味だと思う。言葉を言葉としてだけ伝えるのではなく、その言葉を発するまでにいたった体験、思いを伝える。それがライターの仕事だと思う。

 今の世の中、ツイッターでもブログでも、選手から世界に直接伝えることができる。それなら、ライターが伝えるべきことはなくなるのかというと、そうではないと思うのだ。選手が直接伝える言葉のパワーには勝てないけれど、かわりに選手個人では伝えきれないこと、表現しきれないことを書くことで、別の形で言葉に力を持たせることはできる。

 NBAプレイオフも、いよいよ最後の戦いへと向かっている。勝敗にかかっているものが大きくなればなるほど、そこにたどり着くまでの苦労も時間も多く、それに比例するように選手の思いがズシンズシンと胸に響いてくる。そんな刺激的な毎日を送っていると、あらためて、この仕事をしていてよかったなぁと思うのだった。

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2010年5月 4日 (火)

戦士のアクセサリー

 1回戦の間にアップするつもりだったのが、少しずれこんでしまいましたが、1回戦レイカーズ対サンダーの取材ファイルから、コーチ、選手が、戦いの場でつけているアクセサリーを紹介。

P1110164s_2  これはレイカーズHコーチ、フィル・ジャクソンの手。指につけているのはレイカーズの2008-09シーズンの優勝指輪。フィルは毎年、プレイオフになると、一番最近優勝したときの優勝指輪をつけるのだ。

 ただ、この08-09シーズンの指輪は、鑑賞するにはいいけれど、つけるには大きくて、ごつくて、ぐっと握ってくる人と握手すると怪我人が出そうなぐらいだと、プレイオフが始まったばかりの頃にぼやいて(?)いた。それでも、しっかりと試合のときだけでなく、練習のときもつけている。特別な時期であることをまわりに示すため。

 とはいえ、今のレイカーズの選手たちは、ロン・アーテストを除いてみんな自分たちもこれと同じ指輪を持っているのだけれど。

P1110058s_3
 こちらは、レイカーズのキャプテン、デレック・フィッシャーのシリコンのリストバンド。ピンクのほうには娘の名前が、青いほうには、シンプルに [WIN]と入っている。
P1100994s_3  サンダーのPG、ラッセル・ウェストブルックのリストバンド。青いほうに[KB3]と入っていたので、何のことだろうと不思議に思っていた。で、第6戦の前にロッカールームで聞くチャンスがあったので聞いてみた。すると、これは彼の幼馴染の親友でバスケ仲間(Khelcey Barrs)のイニシャル&番号なのだという。残念ながら、ケルシーは16歳のときにピックアップゲーム中に心臓発作で亡くなってしまったため、こうやってリストバンドにイニシャルを入れることで、今でも彼とともにプレーしているのだという。
 オレンジのバンドには [Why not?] の文字。これについては「いつでも、そういう気持ちでやっているから」とウェストブルック。

P1110147s P1110053s_2  ある意味、これもアクセサリー?
(左)ピントが合っていない写真でスミマセン。ロンロンの(ロン・アーテスト)の左手。テーピングでグルグル状態で、デレック・フィッシャーいわく、「ボクサーのよう」と。
(右)ラマー・オドムの背中。シーズン中から痛めている左肩を、練習後にアイシングしているところ。ついでながら、これが私が取材するときの視野だったりします。背中以外、何も見えない(苦笑)。もう慣れました。 

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