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カンファレンス・ファイナルになると、全米各地の記者が増えてくる。先日のサンズ@レイカーズ第5戦でも、懐かしい顔がチラホラ。
一人はかつてNYタイムス、現在ワシントン・ポストのマイク・ワイズ。メディアルームの外でばったり顔をあわせて、お互い挨拶した後に「時々、君のbyline(記名記事に書かれた筆者名)を見るよ」と言われた。何かと思ったら、どうやら私の名前で検索したらしい。
ちなみに、マイクは、少しだけ日本語を話すことができて、ひらがなだったら読めるらしい。でも漢字は読めない。…ということは当然、私の記事は読めず(笑)、記事にあるアルファベットの名前部分だけ見るに終わったようだ。「日本語が読めたら、ブログもツイッターもやっているのに」と言っておいたけれど、たぶん無理だろうな。
もう一人見かけた懐かしい顔は、元スラム誌で今はESPNのスクープ・ジャクソン。シカゴに住んでいた頃はよく試合で顔をあわせていたけれど、私がLAに引っ越してからはオールスターやファイナルなど大きな試合でしか会わなくなった。
翌日のLAのラジオにも電話出演していたのだけど、何でも試合は最後まで見ることができず、空港に向かう車の中で最後の劇的な場面の実況を聞いていたらしい。
その直後、彼が司会を務める The Next Roundという番組がESPNで流れていたのだが、LAを拠点とするESPNのライター、JA・アダンデ(元シカゴ・サンタムス→ワシントン・ポスト→LAタイムス→ESPN)がゲストとして出ていたから、もしかしたらこの番組の収録でLAに来ていて、ついでに試合に来たのだろうか。
それはともかく、このThe Next Roundが、1回2分間というごく短い番組なのだけれど(CMのような扱いなのかも)、なかなか雰囲気がよく、さらに内容も面白いのだ。Jin Beam というウィスキーの会社がスポンサーということもあって、ジャズバーのようなセットでスクープ+2人のゲストがNBAを語る(放映は2分だけど、30分番組が作れるほど話していると思うので、ぜひカットした部分も見てみたい)。
そういえば、昔、シカゴでは個性豊かなベテラン・スポーツライターが媒体を越えて出演、葉巻やタバコを吸いながら喧々諤々とスポーツを語るという番組(The Sports Writers on TV)があったのだけど、それを現代版&お洒落にした感じ。スクープはシカゴで育った人なので(今もシカゴ在住)、あの番組が元のイメージとしてあるのかもしれない。
The Next RoundでJAが出ていた回のもう一人のゲストは、インディアナ・ペイサーズのダニー・グレンジャーで、トピックは敵選手を称賛すること、敬意を払うこと。その流れで対戦相手の選手、敵チームの選手のシグニチャー・シューズを履く話になった。すると、JAがこう言った。
「ジョーダンがまだ現役だった頃、彼をマークしなくてはいけないのにエアジョーダンを履く選手がいるっていうのが信じられなかった。僕はインタビューするのにもエアジョーダンを履いていきたくなかった。そこまで彼にアドバンテージを与えたくなかった」
この気持ち、わかるな~。このあたりは、記者によっていろんな考え方があると思うけれど、私も取材するとき、できれば選手とは対等な気持ちでしたい思っている。上でも下でもなく同じ立場。もちろん、選手たちはすばらしい才能の持ち主で、そのことに敬意は払うけれど、記者が取材する前から選手に媚びていたら、いい話は聞きだせない。ジョーダンのことも、長年近くで取材していたけれど、エアジョーダンを履いて取材したことはない。エアジョーダン自体、持っていなかったのだけれど、買うのに躊躇したのにはそういった気持ちもあったのだと思う。エアジョーダンを履いたからといって媚びているわけでもないけれど、こっちの気持ちの問題として、ね。
この番組を実際に見たい方はここでどうぞ。あとiTuneのPodcastでも番組をダウンロードできます。お勧め。
さて、ここまでは実は長い前振りで、ここからがきょうの本題。JAの話で思い出したのが、この写真。
少し前に探し物をするのに資料が入ったダンボール箱を探っていたら出てきた写真だ。いや~懐かしい。ロッカールーム内はオフィシャル・カメラマン以外はカメラでの写真撮影は厳禁なので、長年取材していても、この手の写真はほとんど持っていない。この写真はブルズのオフィシャル・カメラマンのビルがいつの間にか撮影していてくれたようで、後に大きく引き伸ばしてプレゼントしてくれたのだ。
注目はこのときに私が履いていたシューズ。スニーカーっぽくない色で気に入っていたのだけど、実はFILAのシューズだった。気に入っていたので、試合にも時々履いていったのだけれど、あるとき(この写真とは別のとき)、試合前のロッカールームでいつものように選手が出てくるのを待っていたら、トレイナールームからロッカールームを通って出て行ったジョーダンが、本当に一瞬チラっとこのシューズを見ただけでナイキでないことをわかったようで(シューズ好きの人からしたら当然かもしれないけれど、シューズの見分けが苦手な私にとってはそれ自体がすごいことだ)、通りがかりに「なんでナイキを履いていないんだ」と言い、その返事を待つことなく通り過ぎていった。
これにはさすがに、私も、一瞬、「え?」状態だった。ジョーダンが通り過ぎてから、FILAのシューズについて言われたのだとわかり、いやはや目ざといと驚くやら、一人のメディアのシューズにもそこまでこだわるかと可笑しくなるやら。
ジョーダンのナイキに対する忠誠心にまつわるエピソードは他にもたくさんある。たとえば、以前、シカゴで行われていたジョーダン・キャンプに日本から来た子供たちの通訳という仕事をしたことがあった。そのとき、キャンプ参加者には、キャンプの最後に一つだけ、自分が持ってきた好きなものにジョーダンのサインをもらえるという特典があった。参加していた日本人の子の一人が、いつも自分が履いているアシックスのシューズにサインをもらいたいと差し出したそのとき、ジョーダンは「これはだめだ。シューズはナイキじゃないとサインはしない」と言うのだ。英語が喋れないその子に代わって「でも、ナイキは元々、アシックスの販売会社として始まったのだから、言ってみれば兄弟会社のようなもの」と主張したものの、「それは知っているけれど、だめだ」と、最後までアシックスのシューズへのサインを拒んだ。たぶん、他メーカーのシューズにサインをすることで、そのシューズを認めているように受け止められる可能性があるのが嫌なのだろう。結局、その時はシューズではなく、シャツか何か別のものにサインしてもらって一件落着だった。
色々な選手を見てきたけれど、ジョーダンほどこういった細かいところで揺るぐことなく、頑固なほど一貫した言動を取り続ける選手は他にあまりいない。他の選手だったら、自分が契約しているメーカー以外のシューズでも、子供からサインを求められたらサインするんじゃないだろうか。ジョーダンのように、いつでも、どんなときでも拒み続けるのもエネルギーがいるはず。でも、そんなことにまでこだわり続けるメンタリティは、ジョーダンの偉大さを支えている重要な要素の一つだと思うのだ。
通りすがりにシューズを見分ける視野と動体視力(?)もね。
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