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2010年6月の記事

2010年6月20日 (日)

名勝負(1)

 今年のNBAファイナルは本当に見ごたえがあった。2年前の優勝チーム、ボストン・セルティックスと、1年前の優勝チーム、ロサンゼルス・レイカーズ。お互いに優勝経験があるだけに、勝つために必要なことが何なのかも知っている。コーチのオンコート、オフコートでの采配もすばらしく、チームとしての結束も強い。
 始まったときから期待はしていたけれど、その期待を裏切ることなく、最後までどっちが優勝するかわからないすばらしい熱戦となった。優勝したレイカーズも、惜しくも敗れたセルティックスも、どちらもすばらしいチームだった。

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 特にその熱い戦いを象徴するかのような名勝負となったファイナル第7戦について、備忘録を兼ねて、印象的だったことをいくつか書き残しておこうと思う。
(長くなったので2回に分けます)

■声援
 G7のレイカーズ・ファンは珍しく試合開始前から大声援。ボストンのメディアからすると「普通レベルの大きさの声援」だったらしいけれど、LAにしてはかなり頑張っていた。セルティックス選手の妨害にはなっていなかったかもしれないけれど、レイカーズ選手にとっては強烈な後押しになっていた。

 その象徴的だった場面。この試合、シュートが入らず、ファウルをもらえず、ボールをコントロールできずにターンオーバーをし苦労していたコービーが、4Q半ば、ようやくレイ・アレンンのファウルでフリースローを3本もらった。そのとき、スタンドから「コービー! コービー!」の声援が起きた。

 いつもならコービーに対する声援というのは、すばらしい活躍をする彼を称える声援なんだけど、このときばかりは、どちらかというと疲れが見えるコービーを後押しするための声援。この時点でレイカーズ4点ビハインド。コービーが3本のフリースローを決めて1点差に追い上げるという、試合では大事な場面だった。

 でも、実はコービー、この声援を聞く余裕もなかったらしい。試合後にこのときの声援について聞かれて「正直言って、聞こえなかった。疲れていて、耳鳴りもしていた。まるで朝6時にトラックを走っているようだった。とにかく疲れ果てていた」と言っていた。
 余談だけど、朝6時にトラックを走るって、どっちかというと早朝で気持ちよさそうなイメージがあるんだけど、このときにこういう比喩で出てくるっていうことは、コービーが早朝トレーニングでどれだけ追い込んでいたかという表れなんだろうか。ちょっと気になる。

■静寂
 試合後、両コーチの記者会見を聞いた後はロッカールームへ。会見場からロッカールームへとつながる廊下は、手前にあるレイカーズのロッカールームに入ろうとするメディアと、レイカーズ選手の家族・知人、そして関係者でごった返していて、とても通り抜けられそうになかったので、いったんコートに出て、サイドラインを抜けて反対側の入り口からセルティックスのロッカールームへ。

 ホームコートのチームが優勝を決めたときはいつもそうなんだけど、アリーナの中で敗戦チームのロッカールームだけが別世界。しーんと静まり返る部屋には選手の姿は一人もなく、片隅にメディアが数十人、5~6重の輪を作っていた。待つ間、メディア間の雑談もほとんどなく、何か話すときもひそひそ声。そうしなくてはいけないような雰囲気が漂っていた。反対側のロッカールームでは、怒鳴るほど大きな声で質問しないと聞こえない状況なのとは対照的だ。

 残っていた選手は全員、裏のトレイナールームで着替えていて、取材を受けるために一人ずつロッカールームに出てきては、その輪の中で話をしていた(セルティックス選手は一人も記者会見場には行かなかったので、ここで話を聞くしかなかったのだ)。

 あの部屋の中でレイカーズの優勝を感じられたのは、セルティックスのスタッフを手助けするために時折部屋に入ってきたレイカーズのボールボーイたちがかぶっていたチャンピオン・キャップだけ。

 私が行ったときには、すでにレイ・アレンは話し終えていたようで、ポール・ピアスが話している最中。その後、ロンドが、そしてKGが出てきて、小さな声で質問に答えていた。声は小さかったけれど、部屋もしーんとしていたので、輪の後ろのほうからでも声は聞こえた。表情は見えなかったけれど、ドクの話によると、試合後は全員がロッカールームで泣いていたらしい。

 2年前、TDガーデンでレイカーズのロッカールームもこんな感じだった。あの時、レイカーズが感じていたのと同じ悔しさ、やり切れなさを、この日のセルティックスは感じていたのだろう。伝統ある両チームのライバル関係に新しい歴史が加えられたのだということをしみじみと感じた静寂だった。

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