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2010年7月31日 (土)

名勝負(2)

 今年のNBAファイナル第7戦についての備忘録後編。…って、すでにファイナルが終わって1ヶ月以上たってますね(汗)。今さらですみません。実は記事自体は(1)をアップした時点でほとんど書いてあったのに、その後、アップしそびれていました。読み返してみると、今さらという内容だけど、元々が備忘録なので、数年後に読み返して、こんなファイナルだったと思い出すためにアップします。

■気力の戦い
 試合中にツイッターでも書いたけれど、長いシーズン、そして長いプレイオフの後にフィジカルなファイナルを7試合まで戦っ て、両チームの選手はみんな疲れ果てていた。レイカーズの1QのFG成功率は22%。セルティックスも2Qの成功率が29.4%。両チームのディフェンス がよかったのもあるけれど、疲れからか、シュートは手前で落ち、いつもなら決めるようなプレーもミスしていた。まるで気力だけで戦っているような試合だっ た。

 レギュラーシーズン中なら、途中でグダグダになるような試合だったけれど、泣いても笑っても、これがシーズン最後の試合。負けたくないという選手 たちの思いが、この試合を熱いものにしていた。どんなにシュートが入らなくて、どんな凡ミスをしても、見ごたえがある試合にしていた。後まで語り継がれる にふさわしい名勝負にしていた。

 試合終盤がまた圧巻だった。これを決めなくてはとという場面で、この試合それまで3P6本中1本しか決めていなかったアーテストが3ポイントを決 めてレイカーズ6点リード。直後に、それまで5本中1本しか決めていなかったレイ・アレンが3Pを決め返して、すぐに3点リードに戻し、コービーのフリー スローの後、残り16.2秒で、3Pを打ってもいなかったロンドがコーナーから3Pを決めた。それまで、両チームともあれほどシュートが決まっていなかっ たのに(ちなみに、この試合で両チームが決めた3Pがあわせて10本。そのうち3本が残り1分余の間に決まったことになる)。

■ゲームボール
 試合の最後、残り数秒、勝利を確実にするためにオドムがフロントコートにボールを投げた。するとそれを追いかけていった選手がいた。コービーだ。ブザー が鳴ると同時ぐらいにボールを掴み、それからそのボールを離そうとしなかった。
 
 これを見て、96年のNBAファイナル6戦で、ゲームボールをしっかり抱いていたマイケル・ジョーダンを思い出した。あの時のジョーダンも、この7戦の コービーと同じように不調で、チームメイトの助けで勝ち、優勝を決めた試合だったっけ。何かと比べられる二人だけに、安易に比べたくはないけれど、コービーにとっても、当時のジョーダンにとってもこの優勝が他のどの優勝ともまた別の意味を持っていたことを象徴する場面だった。

-----と、あらかじめ書いておいたのはここまで。せっかくなので、HOOPのレイカーズ連載原稿にも書いたことをひとつ、書き加えておきます。上の2つ目にも関連した話。-----

■勝負強さ
 第7戦でのレイカーズのヒーローはロン・アーテスト。優勝決定後の、はじけた記者会見は後々に語り継がれるような名(迷?)記者会見だった。その中でも、特にひとつ印象的だったコメントがあった。「自分は大舞台には弱かった。そのことは自分でも自覚していた」というのだ。スポーツ精神科医にかかっていたことを話す中でのコメントだ(こうしてスポーツ選手が自ら大舞台に弱いことを認めるのは珍しい。実際、アーテストもファイナル第7戦という究極の大舞台で活躍できたからこそ、口にしたことだっただろう)。

 一方、レイカーズで勝負強い選手といえばコービー・ブライアント。第7戦のような大舞台で、特に接戦になれば、コービーがシュートを打って決めると、誰もが思っていた。しかし、この試合ではそのコービーのシュートがまったく入らなかった。最後には調子をあげてくるだろうと、誰もが思っていたけれど、最後までロングシュートは入らなかった。その分、ディフェンスを読んでファウアルを誘ったり、リバウンドを取ったりと別の面でチームに貢献し続けたのはさすがだけれど、シュートのあまりの不調ぶりに、試合を見ながら、シーズンを通して指や膝、足首などの故障を抱えながら戦ってきた身体が最後に悲鳴をあげたのではないかと推測していたほどだった。
 しかし、試合翌日のラジオでのインタビューでコービーが認めたことは、彼が故障を認める以上に驚きだった。故障以上にメンタル面での問題だったのだというのだ。「欲しいという気持ちがあまりに強すぎて、そのために無理をしてしまい、求めているものはさらに遠ざかってしまう。そんな状態だった」というのだ。優勝を成し遂げた後とはいえ、そのことをコービーが認めたのは驚きだった。

 つまり、この第7戦のレイカーズは、勝負強いはずのコービーがいつも以上にシュートを決められず、自ら勝負弱いと認めていたアーテストがここ一番のシュートを決めた試合だったのだ。どんなに高いレベルの試合でも人間がやることなのだということを再認識するとともに、つくづく、これがチームスポーツの面白さなのだなぁと思うのだった。

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コメント

セルティックスを応援していたので、こうした第7戦に選手が置かれた究極の状態にあまり意識が行きませんでしたが、アーテスト、コービーの発言は非常に興味深いです。終わって1ヵ月経ったからこそ少しファンとしての気持ちから離れて冷静に第7戦の持つ意味を再認識できました。第7戦の後に勝者の喜びですべてがかき消されてしまいそうな中で落ち着いた見方をされているのはさすがのジャーナリスト精神ですね。basketball

投稿: Kench | 2010年7月31日 (土) 16時16分

レイカーズを応援していました。長年コービーの良いところ悪いところを見てきたのでG7の空回りも大体予想できました。G7ではチームメイトみんなが彼を支えてるという気持ちをひしひし感じました。「欲しいという気持ちがあまりにも強すぎて」という彼のコメントは本当に正直だったと思います。アーテストの会見は爆笑だし、ファンながら面白いチームになったな、と感じました。またコービーがガソルを称賛しトロフィーをすぐに彼に渡したところも良かった。

投稿: こちり | 2010年8月 1日 (日) 06時55分

タイミングをすっかり逃した感がある記事なのに、早速のコメント、ありがとうございます。

>Kenchさん
アーテストとコービーの2人の言葉。それぞれ、シーズンの途中だったら絶対に認めないようなことですよね。最後の試合が終わった後だからこそ、そして、それが優勝という結果で終わったからこそ、自分の「弱さ」もひっくるめて公言する気になったのだろうと思います。

>落ち着いた見方/ジャーナリスト精神
これは、よしあしです。ライターとしては必要な部分だと思いますし、客観的に見ることが必要だとされるアメリカのメディアの中で取材してきたので、自分としても心がけている部分でもあるのですが、その一方で、理論関係なしにチームや選手を応援したり、思いをこめたりといった部分を自制してしまうので、NBAの一番面白い部分を失っている気もしてます。仕事だから当然と言ってしまえばそれまでなのですけれど。

>こちりさん
>長年コービーの良いところ悪いところを見てきたのでG7の空回りも大体予想できました。
それはすごい。私は、今のコービーがあそこまで空回りするとは想像できませんでした。実際に目の前でそれが起こっているときでも、故障がかなりひどい状態になっているのではないかなどと思っていました。

シーズンを通して骨折をしても膝を痛めても"Fine"で通し、強がって、意地を張っていたコービーが、終わった後に弱点を見せた。そんな面が見えたからこそ、また次のシーズンに彼が強がったときに、その裏にある気持ちを、もう少しだけ想像することができそうです。

投稿: 陽子 | 2010年8月 2日 (月) 02時33分

勝負の裏側、特に選手の心理の裏は本当に複雑で興味深い話ですね。マインド・ゲームと言って良いのでしょうか。相手とではなく、自分自身の中のマインドの勝負ですね。

本当にそれがスポーツだと思いますし、いくら職人芸レベルになってもやっぱり人間ですね。ファンから見るとここで必ずいつもどおり調子を上げてきて、、、と当たり前のように期待してしまいますが、毎回毎回、調整しているわけですから、本人たちにとっては、必ず調子が上がるなどといった保証などなく、心の中で葛藤しながら戦っているわけですね。

私ごとですが、大学でスポーツ心理を専攻したため、非常に興味深いお話でした。ありがとうございます。

投稿: Makoto | 2010年8月 4日 (水) 16時23分

>Makotoさん

スポーツ心理を専攻していたんですね。面白そう。私も、今からでも学んでみたい気がします。

で、そうやって理論的に学んだり、長年スポーツを見てきて色々とわかったつもりになっていたようなことでも、実際に具体的な経験談(の一端)を聞くとまた受け止め方が違いますよね。だからこそ、面白いのでしょう。

投稿: 陽子 | 2010年8月 7日 (土) 17時46分

おっしゃるとおりです!スポーツ心理はテキスト(理論)と現場でのストーリ(事実)の行き来でとても楽しく、毎回目から(心から)うろこです。

理論を学ぶと初めて、現場でずっと持っていた疑問が「ああ、これだったのか、こういうことか、やっぱり。」とクリアになることもありますし、やっぱり現場での経験、実話を経て、「ああ、あの理論ってこういうことからきたのだな。」ということも。この、互いのリンクする瞬間がなんとも言えず、嬉しくなります。

しかし、全ての学問は、経験、事実からの分析であり、やはり常に現場に最新がありますね!

(なんだか、”事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているんだ!”みたいな刑事物のTVのせりふに似てしまいました、、、笑。)

新鮮なお話いつもありがとうございます!

投稿: Makoto | 2010年8月13日 (金) 12時20分

もう読みました、ありがとう

投稿: スラムダンク | 2010年10月14日 (木) 00時53分

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