名勝負(2)
今年のNBAファイナル第7戦についての備忘録後編。…って、すでにファイナルが終わって1ヶ月以上たってますね(汗)。今さらですみません。実は記事自体は(1)をアップした時点でほとんど書いてあったのに、その後、アップしそびれていました。読み返してみると、今さらという内容だけど、元々が備忘録なので、数年後に読み返して、こんなファイナルだったと思い出すためにアップします。
■気力の戦い
試合中にツイッターでも書いたけれど、長いシーズン、そして長いプレイオフの後にフィジカルなファイナルを7試合まで戦っ
て、両チームの選手はみんな疲れ果てていた。レイカーズの1QのFG成功率は22%。セルティックスも2Qの成功率が29.4%。両チームのディフェンス
がよかったのもあるけれど、疲れからか、シュートは手前で落ち、いつもなら決めるようなプレーもミスしていた。まるで気力だけで戦っているような試合だっ
た。
レギュラーシーズン中なら、途中でグダグダになるような試合だったけれど、泣いても笑っても、これがシーズン最後の試合。負けたくないという選手 たちの思いが、この試合を熱いものにしていた。どんなにシュートが入らなくて、どんな凡ミスをしても、見ごたえがある試合にしていた。後まで語り継がれる にふさわしい名勝負にしていた。
試合終盤がまた圧巻だった。これを決めなくてはとという場面で、この試合それまで3P6本中1本しか決めていなかったアーテストが3ポイントを決 めてレイカーズ6点リード。直後に、それまで5本中1本しか決めていなかったレイ・アレンが3Pを決め返して、すぐに3点リードに戻し、コービーのフリー スローの後、残り16.2秒で、3Pを打ってもいなかったロンドがコーナーから3Pを決めた。それまで、両チームともあれほどシュートが決まっていなかっ たのに(ちなみに、この試合で両チームが決めた3Pがあわせて10本。そのうち3本が残り1分余の間に決まったことになる)。
■ゲームボール
試合の最後、残り数秒、勝利を確実にするためにオドムがフロントコートにボールを投げた。するとそれを追いかけていった選手がいた。コービーだ。ブザー
が鳴ると同時ぐらいにボールを掴み、それからそのボールを離そうとしなかった。
これを見て、96年のNBAファイナル6戦で、ゲームボールをしっかり抱いていたマイケル・ジョーダンを思い出した。あの時のジョーダンも、この7戦の
コービーと同じように不調で、チームメイトの助けで勝ち、優勝を決めた試合だったっけ。何かと比べられる二人だけに、安易に比べたくはないけれど、コービーにとっても、当時のジョーダンにとってもこの優勝が他のどの優勝ともまた別の意味を持っていたことを象徴する場面だった。
-----と、あらかじめ書いておいたのはここまで。せっかくなので、HOOPのレイカーズ連載原稿にも書いたことをひとつ、書き加えておきます。上の2つ目にも関連した話。-----
■勝負強さ
第7戦でのレイカーズのヒーローはロン・アーテスト。優勝決定後の、はじけた記者会見は後々に語り継がれるような名(迷?)記者会見だった。その中でも、特にひとつ印象的だったコメントがあった。「自分は大舞台には弱かった。そのことは自分でも自覚していた」というのだ。スポーツ精神科医にかかっていたことを話す中でのコメントだ(こうしてスポーツ選手が自ら大舞台に弱いことを認めるのは珍しい。実際、アーテストもファイナル第7戦という究極の大舞台で活躍できたからこそ、口にしたことだっただろう)。
一方、レイカーズで勝負強い選手といえばコービー・ブライアント。第7戦のような大舞台で、特に接戦になれば、コービーがシュートを打って決めると、誰もが思っていた。しかし、この試合ではそのコービーのシュートがまったく入らなかった。最後には調子をあげてくるだろうと、誰もが思っていたけれど、最後までロングシュートは入らなかった。その分、ディフェンスを読んでファウアルを誘ったり、リバウンドを取ったりと別の面でチームに貢献し続けたのはさすがだけれど、シュートのあまりの不調ぶりに、試合を見ながら、シーズンを通して指や膝、足首などの故障を抱えながら戦ってきた身体が最後に悲鳴をあげたのではないかと推測していたほどだった。
しかし、試合翌日のラジオでのインタビューでコービーが認めたことは、彼が故障を認める以上に驚きだった。故障以上にメンタル面での問題だったのだというのだ。「欲しいという気持ちがあまりに強すぎて、そのために無理をしてしまい、求めているものはさらに遠ざかってしまう。そんな状態だった」というのだ。優勝を成し遂げた後とはいえ、そのことをコービーが認めたのは驚きだった。
つまり、この第7戦のレイカーズは、勝負強いはずのコービーがいつも以上にシュートを決められず、自ら勝負弱いと認めていたアーテストがここ一番のシュートを決めた試合だったのだ。どんなに高いレベルの試合でも人間がやることなのだということを再認識するとともに、つくづく、これがチームスポーツの面白さなのだなぁと思うのだった。
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