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中川和之が、JBLの三菱電機ダイアモンドドルフィンズ入りを発表した。彼のブログによると、Dリーグからもドラフト候補選手として契約のオファーがあったというが、それを断っての三菱入りなのだという。それを聞いて、今まで何年もかけてアメリカ挑戦をしながら、なぜDリーグのドラフト候補に入るチャンスをみすみす逃すのかと思った人もいることだろう。
中川は去年の夏から秋にかけて、「今年がアメリカ挑戦の最後。ここでDリーグにも入れなければアメリカ挑戦は諦める」と言っていた。ところが、去年は夏前の故障の影響もあってDリーグ入りはならず。秋のチームトライアウトではかなりいいところまで行ったらしいが、それでも結局はDリーグには入れず、bjリーグでプレーした。
そして今年6月、今度はDリーグに入るためではなく、単に選手としての実力を磨くためにDリーグ・プレドラフトキャンプに参加。その結果、去年は得られなかったドラフト候補としての契約オファーを得たわけなのだから皮肉なものだ。
それにしても、たとえ去年の時点でアメリカ挑戦は諦めたと宣言していたにしても、Dリーグからのオファーがあったら受ければいいじゃないか、なぜ去年は目指していたものを今年は断るのか、と思う人もいるだろう。
実は、今年6月、プレドラフトキャンプを見に行ったときに、中川に「もし、これでDリーグからオファーがあったらどうするのか?」と聞いてみた。去年よりコンディションがよく、いいプレーも見せていたので、まったく可能性がない話ではないと思ったのだ。しかしその時点で中川は、きっぱりと、「それでも今回は受けるつもりはない」と言っていた。
それには理由があった。労働ビザだ。去年までの中川は、以前取った選手としての労働ビザを持っていた。その期限が切れる前にDリーグに入りたい、というのが、去年「最後の挑戦」と口にしていた大きな理由だったのだ。
もちろん、Dリーグのロスター入りすればDリーグで労働ビザを取ってもらえる可能性はある。実際、田臥もDリーグの選手として労働ビザを取ったこともあった。とはいえ、あのときの田臥はすでにNBA経験があり、Dリーグでも経験がある選手だ。今の中川とは立場も違う。Dリーグ経験もなく、Dリーグチームのロスターに入るかどうか、ぎりぎりの線上にあるぐらいの選手である彼に対して、Dリーグが時間と経費をかけて労働ビザの手続きをしてくれるのか。手続きをしてくれたとして、申請してから許可が下りるまでにどれぐらいの日数がかかるのか。そういったことをもろもろ考えると、あまり現実的な選択肢ではない、そう中川は判断した。
これが、Dリーグではなく、NBA入りのチャンスだったらまた考えも違っただろう。中川にとってのアメリカ挑戦は最終目標は常にNBAであり、DリーグもNBAへの入り口として選んだ選択肢だったのだ。
言ってみれば、タイミングがほんの少しだけずれてしまっただけ、とも言える。それでも、ここできっぱり諦められるのは、ここまで彼が本気で挑戦してきたからなのだろう。彼の選択をもどかしく思う人もいるかもしれない。「そんな細かいことはあとから考えればいいから、とりあえずチャンスがあるならやってみればいいのに」と思う人もいるかもしれない。しかし、何年もアメリカでやってきた彼だからわかる現実もあるのだ。
同じようなことは、コロンビアを出てレラカムイに入った松井啓十郎にも言える。ノースカロライナ大ではなく、コロンビア大を選んだときの選択(このあたりのことを含めて、彼の大学4年間については月刊バスケットボール10月号に記事を書いてます)、そしてコロンビアでの4年を終えた後にレラカムイに入るという選択。アメリカで、高校時代にトップのレベルも経験したからこそ、彼はそういう選択をしたのだと思う。
遠くから見ていると、目標は近くに見えるように錯覚することがあるが、実際に中に入って経験する選手たちは、その距離を身をもって実感しているのだ。
そういえば、NBAサマーリーグの頃、ラスベガスで、とある人と日本人選手がNBAに入る可能性について話したことがある。この夏も、何人かの日本人選手たちがNBA挑戦を口にし、実際に行動に移していたけれど、現実的にどれぐらいの可能性があるのか。個人的な意見だが、正直なところ今の時点ではどの選手の可能性も10%もないと思っている。数字として出してもあまり意味がないと思いながらあえて書いてしまうと、現実的に考えると、今挑戦している日本のトッププレイヤーたちでも1%~5%ぐらいではないかとすら思う。
だから、その現実を感じて別の道を選んでも、それはそれで悪い選択とは私には言えない。ただし、常に上達したい、成長したいという気持ちだけはどこに行っても持ち続けてほしいと思うけれど。
最後にひとつ記しておきたいのは、これは、可能性が低いとわかっていながら(あるいはもしかしたら現実よりも可能性が高いと思い込んで)NBAに挑戦する選手たちに「現実を見たほうがいい」と言うつもりで書いたわけではないということ。それだけ厳しい中で、厳しいとわかりながら挑戦を続ける選手たちには敬意を感じるし、メディアという立場を離れて、応援したいとも思う。それに、それぐらい強い気持ちがなければ、1%を100%にすることはできないのだ。
そういえば、前に、知り合いのNBAのスカウトが言っていた。「NBAに入るは別に世の中の人たち全員に認めてもらう必要はない。1人のヘッドコーチ、1人のGMが認めてくれればいい」と。
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